室生犀星 「時無草」「秋の終り」(詩集『抒情小曲集』より)
時無草秋のひかりにみどりぐむときなし草は摘みもたまふなやさしく日南にのびてゆくみどりそのゆめもつめたくひかりは水のほとりにしづみたりともよ ひそかにみどりぐむときなし草はあはれ深ければそのしろき指もふれたまふな秋の終り君はいつも無口のつぐみ
秋 こころがたかぶってくる わたしが花のそばへいって咲けといえば 花がひらくとおもわれてくる 果物 秋になると 果物はなにもかも忘れてしまって うっとりと実みのってゆくらしい 壁 秋だ 草はすっかり色づいた 壁.
萩原朔太郎 「廣瀬川」「晩秋」(詩集『純情小曲集』『氷島』より)廣瀬川 廣瀬川白く流れたり 時されば皆幻想は消え行かむ。 われの生涯らいふを釣らんとして 過去の日川邊に糸をたれしが ああかの幸福は遠きにすぎさり 小ちひさき魚は瞳めにもとまらず。 晩秋 汽車は高架を走り行き 思ひは陽.
北原白秋「片恋」(詩集『東京景物詩乃其他』より)片恋 あかしやの金きんと赤とがちるぞえな。 かはたれの秋の光にちるぞえな。 片恋かたこひの薄着うすぎのねるのわがうれひ 曳舟ひきふねの水のほとりをゆくころを。 やはらかな君が吐息といきのちるぞえな。 あかしやの金と赤とがちるぞえ.
萩原朔太郎 「蝶を夢む」(詩集『蝶を夢む』より)蝶を夢む 座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼はねをひろげる 蝶のちひさな 醜い顏とその長い觸手と 紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。 わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。 しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとす.