オス犬の去勢手術・完全ガイド~方法・費用から術後のケアまで
オス犬の去勢手術・完全ガイド~方法・費用から術後のケアまで

オス犬の去勢手術・完全ガイド~方法・費用から術後のケアまで

【1ページでまるわかり】去勢手術とはオス犬の生殖能力を人の手によってなくしてしまうことです。メリットとデメリットを最新の科学的データとともにご紹介しますので、手術の目的や時期を決める際の参考にして下さい。

去勢手術の料金は10,000~25,000円程度が一般的です。2015年のデータでは、だいたいの相場(中央値)が「17,675円」となっています (📖:日獣医・診療料金実態調査) 。 動物病院によって「去勢手術」に含まれる内容が多少違うかもしれません。例えば病院Aでは「事前検査+施術+麻酔」で病院Bでは「施術+麻酔+術後ケア」などです。どこからどこまで含まれているのかは事前に確認したほうがよいでしょう。また手術の期間は日帰りがほとんどですが、1日入院させて落ち着いてから退院というケースもあります。入院を伴う場合は手術と別料金になることがありますので、こちらも事前の確認が必要です。 なお地方自治体によってはオス犬の去勢手術に助成金を設けているところがあります。ほとんどのケースでは申し込み条件や人数制限がありますので、管轄の役所にお問い合わせ下さい。以下は助成金を給付している自治体の一覧リストです。 犬・猫の不妊・去勢手術助成金(平成30年3月31日版)

去勢手術の目的や割合は? 去勢手術の流れや時間 去勢手術はいったいどのような流れで行われるのでしょう?以下では最も一般的に行われる精巣切除術の段取りを、術後のケアとともにご紹介します。 去勢手術の流れ 以下は去勢(精巣切除)を行うまでの一般的な流れです。料金は地域や犬の体重によって変動しますので事前に確認しておく必要があります。
  • 予約 かかりつけの動物病院に連絡し、去勢手術の予約を取ります。
  • 絶食 手術前の最低8時間程度は食事を抜き、胃袋の中を空っぽにしておきます。これは麻酔で嘔吐してしまった時、嘔吐物が気管や肺に入って誤嚥性肺炎を起こさないようにするためです。水は飲んでも大丈夫です。
  • 来院 予約時間に遅れないよう来院します。病院にも受診スケジュールがありますので、遅刻しそうな場合は少なくとも連絡しましょう。
  • 身体検査 身体検査や血液検査を行い、特に腎臓や肝臓に問題がないかどうかを確認します。腎臓に障害がある場合は麻酔に伴う血圧の低下で死亡事故が起こってしまうかもしれません。肝臓に障害がある場合は、投与した麻酔薬を代謝できないかもしれません。特に老犬においては飼い主が知らないうちに腎臓や肝臓に障害が発生していることもありますので、事前検査は慎重に行います。
  • 麻酔 腎臓や肝臓に問題がないことが確認されたら、麻酔薬を注射して全身麻酔をかけます。
  • 手術 熟練した獣医師の場合、麻酔を除いた実際の去勢(精巣切除)にかかる時間は10分以内です。具体的なやり方は「図解・去勢手術のやり方」をご覧ください。
  • 帰宅 犬が問題なく麻酔から覚めた場合、その日のうちに帰宅することが可能です。犬の回復が思わしくない場合は1日入院させて翌日に帰宅するというパターンもあります。経口麻酔薬や傷口の感染を防ぐための抗生剤が処方されるかどうかは病院によってまちまちです。
去勢後の安静期間

去勢後の24時間程度はまだ通院ストレスや痛みが残っていますので、犬の元気がなくエサを拒絶することがあります。傷口の離開を防ぐためにも、動かず安静にしていたほうが安全です。 その後、少しずつ体調が回復してぐったり感がなくなっていきますが、72時間経過しても水をやたらに飲む、逆に全く飲まない、食事を拒絶、嘔吐、元気消失、無尿、タール便、下痢といった症状が見られる場合は念のため獣医さんに確認しましょう。なお自己判断で人間用の鎮痛薬や睡眠薬は絶対に投与しないでください。死亡を含めた重大な中毒事故が報告されています。 犬に睡眠薬を投与する危険性 犬が手術で縫合した部位を自分でなめてしまわないよう、痛みが続いている間はエリザベスカラーを装着して口が届かないようにガードします。去勢後の激しい運動やなめまわしにより精索から出血してしまうと、陰嚢(袋)がはれたり赤くなることがあります。あまりにも大きくなると血腫や漿液腫ができて手術前と同じ外観を呈するため「手術ミスではないか!」と勘違いする人もいますが、通常は血液が自然に体内に吸収されてしぼんでいきます。 手術から5日ほどは激しい運動によって傷口が開いてしまう危険性がありますので、散歩はリードを付けてゆっくり行うよう注意しなければなりません。傷口が治癒して完全にふさがるまでの2週間くらいはお風呂や水浴びも禁止です。皮膚縫合で抜糸を指示されている場合は、予約に合わせて来院し、縫合糸を抜いてもらいます。

去勢後、1日で元気になる犬もいれば4~5日間ぐったりしたままの犬もいます。痛みや感染が見られる場合は鎮痛薬や抗生薬を処方してもらいましょう。 NEXT:去勢手術の方法は?

図解・去勢手術の方法

以下は全身麻酔下にあるオス犬に対して行われる精巣切除術を図解したものです。図には示されていませんが、汚染を防ぐため切開する部分以外には医療ドレープが掛けられています。
  • 【図解1】剃毛・切開 犬を仰向けに寝かせ、おなかから足の付け根にかけての部分に生えている被毛をきれいに剃り落とします。手術部位を見やすくすると同時に、被毛から切開部に病原体が入らないようにするためです。皮膚が露出したら陰茎(ペニス)と陰嚢(玉袋)の間にある皮膚を切開します。きわめてまれですが、下手くそな獣医師の場合、切開する際に下にある尿道を傷つけてしまい、大出血を起こしてしまうことがあります。
  • 【図解2】精巣露出 左右どちらか一方の精巣を切開部から押し出して露出します。精巣の上に付属しているのが精巣上体と呼ばれる小器官です。また精巣は精巣鞘膜と呼ばれる線維組織で覆われていますので、切り開いて中の精巣を露出してしまいます。ちょうどブドウの果実を皮からちゅるんと取り出すときのようなイメージです。
  • 【図解3】結紮・切除 精巣を露出したら、血管と精管を含んだ紐状のケーブル(精索)を手術用の糸で1~2ヶ所を固く結び、血液の流れを止めてしまいます。結紮(けっさつ)が完了したら、そこより上の部分で精索をカットし、精巣と精巣上体の両方を腹腔から切り離します。これで片方が完了です。
  • 【図解4】縫合 上記した手順で左右両方の精巣切除が終わったら、精索の末端部分を腹腔内に戻し、皮膚につけた切開部を縫合します。埋没(皮内)縫合の場合は体内で溶ける糸を使い、皮膚縫合の場合は2週間後にもう一度来院して抜糸するというのが一般的な流れです。
以下でご紹介するのはオス犬に対して去勢手術を施す際の動画です。鎮静→麻酔→手術→回復という順で進行します。 元動画は→こちら 腎臓や肝臓が悪いまま麻酔をかけると手術中の死亡リスクが高まりますので、術前の検査はしっかり行います。 NEXT:去勢の適齢期とは?

去勢手術の時期はいつ?

アメリカ国内では長らく、不妊手術を行う適齢期として6~9ヶ月齢が推奨されてきました。しかし近年は、もっと早い時期に手術を行ってもよいのではないかという意見がちらほらと出てきています。 オス犬の去勢はいつ行う? オス犬に関しては6ヶ月齢以前に行うことを推奨する専門家が増えてきています。具体的には以下です。 犬の早期去勢手術・支持団体
  • The Association of Shelter Veterinarians(ASV)→6~18週齢
  • American Veterinary Medical Association(AVMA)→時期は明記せず
  • American Society for the Prevention of Cruelty to Animals(ASPCA)→2ヶ月齢(0.9kg)になったら
  • Canadian Veterinary Medical Association(CVMA)→性的に成熟する前に(※大型犬と超大型犬は最新データを精査すること)
去勢の適齢期・エビデンス集
  • 1997年の調査 1,213頭の犬と775頭の猫を対象として調査した所、24週齢以降に手術を行ったグループ(10.8%)は、12週齢未満のグループ(6.5%)よりも合併症が多かった。しかし12~23週齢のグループ(8.8%)とは統計的な差はなかった。早期の不妊手術が犬や猫の疾患率や死亡率を高めることはないと思われる ( :Howe LM, 1997)
  • 2001年の調査 動物保護施設に収容された269頭を対象に調査を行った所、24週齢(生後6ヶ月)未満で手術を施したグループでは感染症の発症率が高く、中でもパルボウイルスが多かった。逆に24週齢以降に手術を行った犬では消化管の障害が多かった。しかしこれらの違いは、調査が行われたシェルターの衛生レベルに差があっただけかもしれない。その後4年間の追跡調査を行ったが、早期グループにおいて問題行動や身体に関連したトラブルが多いという傾向は見出されなかった ( :Howe LM, 2001) 。
  • 2004年の調査 1,800頭を超える犬を対象とし、5.5ヶ月齢を境に不妊手術を施し、4~4.5年の追跡調査を行った。早期手術グループでは、股関節形成不全、騒音恐怖症、性的行動が増え、肥満、分離不安、逸走、恐怖時の粗相、飼い主による飼育放棄が減った。早期手術を受けたオス犬では、同居人に対する攻撃性と無駄吠えが多かった。オス犬に対しては6~8ヶ月齢前の段階で去勢を行うことが推奨される。 ( :Spain, 2004) 。
NEXT:メリットとデメリット

去勢手術のメリット・デメリット

去勢の最大のメリットは? 飼い主のいない犬の数と殺処分数を減らすことです。

2023年4月~2024年3月の1年間で、1,730頭の成犬と、388頭の子犬が殺処分されました。こうした殺処分の背景には面白半分で犬を繁殖させ、生まれてから子犬の貰い手がいないことに気づき、「まぁいいや」という感覚でタバコの吸殻のように犬猫を捨ててしまう一部の飼い主の存在があります。 犬は多産で多いときは一度に5頭以上生むこともあります。生まれてくる子犬全てに飼い主を見つけることができないのであれば、予め不妊手術を受けさせるのが不幸な犬猫の数を減らすことへとつながるのです。 犬の殺処分について

麻酔で死亡するリスクはある? 犬の性別や年齢に関わらずあります。 マーキングは減る? マーキングや粗相が減る可能性示されています。 食欲や体重は増える? 手術後は太る可能性があります。 寿命は伸びる?短くなる? 寿命に格差が見られたとしてもわずかです。 ストレスは減る? 性衝動に関連したストレスは減ると考えられます。 尿もれは増える? 去勢と尿もれとの間に因果関係は報告されていません。 噛み癖は治る? よくわかっていません。 性格はおとなしくなる? 徘徊・放浪行動は減るかもしれません。 無駄吠えはなくなる? 遠吠えに関しては減るかもしれません。

ペンシルベニア大学獣医学部が行った調査によると、一生のうちで性ホルモンに暴露されていた期間の割合(PLGH)が増えるほど、また去勢を受けたタイミング(AAC)が遅いほど、飼い主の主観ベースで「留守番中の遠吠えが増加する」割合が増えたといいます。逆に言えば去勢手術によって遠吠えが減るということです。 しかし去勢手術と無駄吠えの関係性を検証した調査はほとんどなく、また遠吠え以外の無駄吠え(ストレス・来客・他の犬 etc)は逆に増えるという報告もありますので、「無駄吠えをしつけ直す方法」を読んだ方が早いかもしれません。論文を含めた詳しい内容は以下のページをご参照下さい。 去勢・避妊手術は犬の問題行動を増やすか?減らすか?

トイレで足上げしなくなる? おしっこするときの姿勢が変わる可能性があります。 がんのリスクは減る? 去勢によって非生殖器系の悪性腫瘍(がん)の発症リスクが低下するという報告は見当たりません。 骨や筋肉の病気は減る? 去勢手術で筋骨格系疾患のリスクが低下するという報告は見当たりません。 生殖器の病気は減る? 内分泌疾患は増える?減る? 去勢と副腎皮質機能亢進症との関係性が指摘されています。 免疫系疾患は増える?減る? 去勢といくつかの免疫系疾患の関係性が指摘されています。 認知症になりやすくなる? よくわかっていません。 いまだに去勢賛成派と反対派が混在している理由は、上記したようにメリットとデメリットが複雑に絡み合っているからです。そう簡単に答えは出ませんね。 NEXT:停留精巣の危険性

停留精巣の診断と手術

停留精巣の診断

オス犬の場合、生後5~10日齢で睾丸が陰嚢の中に移動し、生後14日齢くらいで触知できるようになります。この頃の子犬が興奮したり激しい運動をしたりすると、一度落ちてきた睾丸がまるでヨーヨーのように、再び腹腔内に引き戻されてしまうことがあります。移動が正常に完了し、位置が定まって腹腔内への引き戻しが起こらなくなるのは生後8週齢(56日齢)ころです。ただし犬の中には生後6ヶ月齢になってようやく移動が完了する個体もいます (Cox, 1986) 。 犬が停留精巣であるかどうかの診断は生後8週齢頃に行います。片方だけ降りてもう片方が見当たらない場合が片側性の停留精巣(片玉)、両方とも見当たらない場合が両側性の停留精巣です。最も多いのは片側性(75%)で右側の精巣だけが停留するというパターンが左側の2倍に達するとされています ( :Miller, 2004) 。 なお睾丸がそもそも1つしかない場合は単精巣(monorchidism)、そもそも両方欠落している場合は無精巣(anorchism)として区別しなければなりません。

停留精巣のデメリット 精巣捻転 腫瘍化 女性化症候群 骨髄低形成と汎血球減少 停留精巣の手術方法と料金 皮下停留精巣の手術方法

鼠径部に停留している場合は膨らみとして確認できますので場所の特定は簡単です。切除する際は脂肪の塊や鼠径リンパ節と間違わないようしっかり確認し、「図解・去勢手術のやり方」で解説したのと同じように、直上の皮膚を切開して停留していた精巣を体の外に露出した上で結紮・切除します。 画像の元動画→Canine Inguinal Cryptorchid 皮下停留精巣の手術にかかる金額は、10,000~40,000円程度が一般的です。2015年のデータでは、だいたいの相場(中央値)が「20,568円」となっています (📖:日獣医・診療料金実態調査) 。

腹腔内停留精巣の手術方法

精巣が腹部に停留しているような場合は、超音波検査をしたりいったんおなかを切り開いた上で位置を特定しなければなりません。停留精巣は通常の精巣に比べて小さく、またしっかりと固定されていませんので、なかなか見つからないこともしばしばです。 開腹手術は犬の体に対する負担が大きいため、近年は腹腔鏡を用いた手術法も開発されています。この方法を用いた場合、へその下に1.5~3.0cm前後の穴を開けて腹腔鏡を差し込み、停留している精巣をカメラで見つけます。見つかったら患部の近くにもう1つ別の穴を開けて医療鉗子を差し込み、2~3cmの切れ込みを付けて精巣を体の外に取り出します。後は「図解・去勢手術のやり方」で図解したのと同じ手順で停留精巣を切除します ( :M. Lew, 2005) 。 画像の元動画→Laparoscopic Assisted Cryptorchid Neuter 従来の開腹手術にくらべ、かかる時間(10~30分)の短縮、体につける傷の減少(1~3cm)、術後の痛みや鎮痛薬の軽減などさまざまなメリットがあります。動物病院が腹腔鏡手術に対応しているかどうかは事前にご確認下さい。 腹腔内停留精巣の手術にかかる金額は、15,000~50,000円程度が一般的です。2015年のデータでは、だいたいの相場(中央値)が「28,500円」となっています (📖:日獣医・診療料金実態調査) 。

停留精巣は病気の一種ですが、ペット保険ではなぜか補償されないことが多いようです。加入している場合は「停留/潜在」「精巣/睾丸」などのキーワードを約款内でご確認下さい。 NEXT:化学的去勢とは?

去勢の代わりになる方法

性腺を狙った方法

性腺に直接化学物質を注入することによって精巣、精巣上体、精管などに働きかけ、精子を形成できなくする方法です。「化学的去勢」と言った場合、狭い意味ではこの方法を意味します。 去勢手術の場合と同様、ひとたび生殖能力を失うともう元には戻せません。切開を必要としないことから、数多くの野犬を一度に去勢する場合などに採用されます。また麻酔が必要ないことから、肝臓や腎臓が弱い老犬などに用いられることもあります。 グルコン酸亜鉛を用いた製品アメリカのFDA(食品医薬品局)ですでに認可済です。